「プラネタリーヘルスダイエット」とは何か?
はじめに
近年、個人の健康と地球環境の持続可能性の双方に良い食生活が注目されています。その中心となる概念が「プラネタリーヘルスダイエット(Planetary Health Diet)」です。プラネタリーヘルスダイエットは、2019年に公表された概念ですが、近年様々な研究成果が報告され、それに伴い、メディア等で報じられる機会も増えてきているように思われます。2025年11月には、プラネタリーヘルスダイエットに関する新たな報告書(2025年報告書)も公表されました。
この記事では、プラネタリーヘルスダイエットの概要・意義と、2026年2月1日現在における最新の研究成果をご紹介します。
プラネタリーヘルスダイエットとは
プラネタリーヘルスダイエットは、2019年に科学者グループ「EAT-Lancet Commission」によって提唱された、人類と地球の健康双方にとって便益のある食事プランです。提唱された団体の名称を踏まえ、EAT-Lancetダイエットと呼ばれることもあります。
プラネタリーヘルスダイエットの主な特徴及び各食品の1日の推奨摂取量は以下の通りです。
・植物性食品中心
全体の約半分を果物、野菜、ナッツ、全粒穀物が占めます。具体的には、一日の推奨摂取量が全粒穀物232グラム、根菜・でんぷん質の多い野菜50グラム、野菜300グラム、果物200グラムです。
・ 動物性タンパク質の削減
肉類や乳製品の摂取量を減らし、代わりに豆類や魚介類からタンパク質を摂取します。具体的には、牛肉・豚肉・羊肉が14グラム、鶏肉が29グラム、魚が28グラム、豆類が75グラム、ナッツ50グラムとなっています。
・砂糖・油分摂取の制限
加工食品の摂取を減らし、自然な形の食品を中心に摂取します。上記に加えて砂糖を摂取する場合、1日31グラム以下とすることが推奨されています。また、上記に加えて油分を摂取する場合、不飽和脂肪の摂取が推奨され、不飽和脂肪を40グラム摂取し、飽和脂肪の摂取は11.8グラム以下に抑えることが推奨されています。
一見ベジタリアンやヴィーガン食とも似たような食事に見えますが、プラネタリーヘルスダイエットは、動物性食品の摂取を禁止・排除することが目的なのではなく、健康と地球環境への負荷の観点から最適な量に調整したものであるため、設計思想が大きく異なります。
なぜプラネタリーヘルスダイエットが重要か
プラネタリーヘルスダイエットを推奨することの意義は、その摂取によって健康増進につながるだけでなく、かつ地球環境への負荷が小さい点にあります。
例えば、肉類の生産は、温室効果ガス(GHG)の排出や森林伐採などを通じ、地球環境に大きな負荷をかけていことが指摘されています。また、肉類のうち、いわゆる赤身肉(日本でよく使用される赤身の肉という意味ではなく、牛肉・豚肉・羊肉など鳥類以外の哺乳類の肉全般を指します。)の消費は、健康に対しても一定の悪影響を与えるとの指摘も出ています。そのため、プラネタリーヘルスダイエットは、植物性食品を中心にたんぱく源を構成することによって、健康増進と環境負荷の双方にとって利益(コベネフィット)があるとしています。
2025年の報告書では、プラネタリーヘルスダイエットへの移行によって1500万人の早期死亡を防ぐことができるとともに、食品に由来するGHG排出量を半分以上削減できるとしています。
プラネタリーヘルスダイエットに関する研究成果
プラネタリーヘルスダイエットの効果について、2024年頃から大規模なコホート研究を含めた疫学的研究が多く発表されています。以下では、その中でも代表的なものをいくつかご紹介いたします。
まず、2024年7月に公表された米国の大規模前向きコホート研究をご紹介します。この研究では、米国の3つの大規模なコホート(Nurses’ Health Study I、Nurses’ Health Study II、Health Professionals Follow-up Study)に参加した、ベースライン時に心血管疾患・がん・糖尿病のない約20万人を対象に、プラネタリーヘルスダイエットへの遵守度と心血管疾患発症との関連を検討したものです。その結果、順守度が最も高いグループは、最も低いグループと比較して全死亡リスクが23%低いほか、心血管疾患リスク、がん、呼吸器系疾患、神経変異性疾患による死亡リスクも有意に低いことが示されました。加えて、プラネタリーヘルスダイエットの実践により、温室効果ガス排出量は29%、耕作地使用料は51%減少するなど、環境面でも効果があり、その効果は地中海食などと比較してもより強い傾向にあるとされています。
別の研究では、妊娠糖尿病の既往症がある女性4,633人を対象としたプラネタリーヘルスダイエット遵守度(Planetary Health Diet Indexで評価)と2型糖尿病、心血管疾患、および長期体重変化との関連を調査しました。その結果、プラネタリーヘルスダイエットの遵守度が最も高い群は最も低い群に比べ心筋梗塞リスク、2型糖尿病リスクが低い傾向にあり、その多くはBMIによって媒介されているとされました。すなわち、妊娠糖尿病の既往症がある女性において、プラネタリーヘルスダイエットの遵守度が高い場合、BMIの減少を通じて代謝・心血管リスク低減に寄与する可能性があることが示唆されました。
また、米国の一般集団におけるプラネタリーヘルスダイエットと喘息の関連性、およびその間にBMIがどのように影響を及ぼすかを調査した研究では、プラネタリーヘルスダイエットを忠実にしているほど喘息の発生率が低いことが示されました。そして、BMIが喘息に対して有意に正の関連を示していることから、プラネタリーヘルスダイエットを忠実に実施することでBMIが減少する可能性があることも示されました。
このように、プラネタリーヘルスダイエットを忠実に実施することによって、特定の疾病の有病率や死亡率が減少し、また同時に環境負荷も減らすことが示唆されています。
もっとも、こうした諸研究は、プラネタリーヘルスダイエットと健康リスク・環境負荷低減との関連性を示すものであり、因果関係を示しているわけではない点に注意が必要です(これは、プラネタリーヘルスダイエットに限らず、食事に関するエビデンス全般に言えることでもあります。)。また、国・地域・集団それぞれの食生活・文化・生活様式などによって効果が異なる可能性がある点にも注意する必要があります。プラネタリーヘルスダイエットの普及にあたりどのような課題があるのかについては、別の記事にてご説明いたします。
まとめ
プラネタリーヘルスダイエットは、個人の健康と地球環境の両方に配慮した新しい食事プランとして公表され、今も研究成果が積み重なっているホットな領域です。今後の研究の集積を待つ必要がある側面もありますが、私たち一人一人が持続可能な未来の実現に貢献するためにどのような食事が適切かを考えるにあたり、プラネタリーヘルスダイエットの概念を理解することは重要といえます。
