「プラネタリーヘルスダイエット」とは何か?
はじめに
近年、個人の健康と地球環境の持続可能性を同時に考慮した食生活が注目されています。その中心となる概念が「プラネタリーヘルスダイエット(Planetary Health Diet)」です。2019年に公表された、プラネタリーヘルスよりも更に新しい概念ですが、次々に研究成果が報告され、それに伴い、メディア等で報じられる機会も増えてきているように思われます。
この記事では、プラネタリーヘルスダイエットの概要・意義と、2024年9月1日現在における最新の研究成果をご紹介します。
プラネタリーヘルスダイエットとは
プラネタリーヘルスダイエットは、2019年に科学者グループ「EAT-Lancet Commission」によって提唱された、人類と地球の健康を同時に改善することを目指した食事プランです。
プラネタリーヘルスダイエットの主な特徴及び各食品の1日の推奨摂取量は以下の通りです。
1. 植物性食品中心
全体の約半分を果物、野菜、ナッツ、全粒穀物が占めます。具体的には、一日の推奨摂取量が全粒穀物232グラム、根菜・でんぷん質野菜50グラム、野菜300グラム、果物200グラム、ナッツ50グラムです。
2. 動物性タンパク質の削減
肉類や乳製品の摂取量を減らし、代わりに豆類や魚介類からタンパク質を摂取します。具体的には、牛肉・豚肉・羊肉が14グラム、鶏肉が29グラム、魚が28グラム、豆類が50グラム、大豆が25グラムとなっています。
3. 不飽和脂肪の推奨
オリーブオイルなどの健康的な油の使用を推奨しています。
4. 精製糖や精製穀物の制限
加工食品の摂取を減らし、自然な形の食品を中心に摂取します。砂糖は1日の推奨摂取量は30グラムとなっています。
なぜプラネタリーヘルスダイエットが重要か
プラネタリーヘルスダイエットを推奨することの意義は、健康増進につながり、かつ環境保護にも貢献する最適な食事プランを提供することにあります。例えば、肉類の生産は、温室効果ガスの排出や森林伐採の主要な原因の一つと言われています。また、同様に、赤身肉の消費は、健康に対しても一定の悪影響を与えるとの指摘も出ています。そのため、動物性たんぱく質を削減し、植物性食品を中心とすることによって、健康増進と環境負荷の双方にとって利益(コベネフィット)がある、とするのがプラネタリーヘルスダイエットの提示するメリットです。
プラネタリーヘルスダイエットに関する研究成果
2019年にプラネタリーヘルスダイエットの概念が公表されたばかりであることもあってか、これまでその具体的な効果に関する研究成果は限られていましたが、近年研究成果の報告が増えてきました。
ある研究では、がんや糖尿病、主要な心血管疾患に罹患していなかった20万6000人以上の食事データと健康記録を分析したところ、プラネタリーヘルスダイエットを忠実に実践した人は、実践しなかった人に比べて、早期死亡のリスクが30%低く、がん、心臓病、肺疾患による死亡リスクも低いことが判明しました。また、女性においては感染症による死亡リスクの低下も見られました。加えて、プラネタリーヘルスダイエットの実践により、温室効果ガス排出量は29%、土地利用率は51%減少したとされています。
別の研究では、プラネタリーヘルスダイエットの実践的な適用可能性を探るため、米国の19の大学食堂プログラムを対象とした研究が行われました。この研究によれば、各大学の食品調達をプラネタリーヘルスダイエットに合わせて食品調達を調整した場合、温室効果ガス排出量が平均46.1%削減され、健康的な食事指標(HEI)スコアが19.7ポイント上昇すると推定されました。さらに、コストデータを提供した大学では、食品コストが平均9.7%削減されることが示されました。
また、米国の一般集団におけるプラネタリーヘルスダイエットと喘息の関連性、およびその間にBMIがどのように影響を及ぼすかを調査した研究では、プラネタリーヘルスダイエットを忠実にしているほど喘息の発生率が低いことが示されました。そして、BMIが喘息に対して有意に正の関連を示していることから、プラネタリーヘルスダイエットを忠実に実施することでBMIが減少することも分かりました。これにより、BMIがプラネタリーヘルスダイエットの実施と喘息の関係を一定程度仲介していることが確認されました。
このように、プラネタリーヘルスダイエットを忠実に実施することによって、特定の疾病の有病率や死亡率が減少し、また同時に環境負荷も減らすことが示唆されています。
もっとも、プラネタリーヘルスダイエットに関する研究はまだ発展途上であり、国・地域・集団それぞれの食生活・文化・生活様式などによって効果が異なる可能性がある点には注意する必要があります。例えば、中国の成人9,364人を対象とした大規模な研究において、プラネタリーヘルスダイエットスコアが高いほど、環境負荷が高くなる傾向が見られたことが報告されています(ただ、死亡リスクも低下する傾向にあり、その意味では健康には良い食事と解釈することができそうです。)。
そのため、あらゆる場面において「プラネタリーヘルスダイエットを実践すれば、健康にも良く環境負荷も下げることができる」と断定できるかについて慎重な検討が必要であり、更なる研究成果を待つ必要があるように思われます。
まとめ
プラネタリーヘルスダイエットは、個人の健康と地球環境の両方に配慮した新しい食事プランであり、最新の研究成果により、その効果が徐々に明らかになってきています。今後の研究の集積を待つ必要がある側面もありますが、私たち一人一人が持続可能な未来の実現に貢献するためにどのような食事が適切かを考えるにあたり、プラネタリーヘルスダイエットの概念を理解することは重要であるといえるでしょう。