マイクロプラスチック/ナノプラスチック(MNPs)が私たちの健康に与え得る影響
マイクロプラスチックとナノプラスチック
近年、私たちの環境におけるマイクロプラスチック(直径5mm未満)やナノプラスチック(直径5u未満)(以下、総称して「MNPs」といいます。)の偏在がますます明らかになってきています。MNPsは我々の肉眼ではほとんど捉えることはできませんが、深海から私たちが呼吸する空気まで、地球の隅々にまで浸透しつつあります。例えば、The Science of the Total Environmentに掲載された研究では、南極沖の南ウェッデル海の表層水サンプルに高濃度のマイクロプラスチックが含まれていることが発見されています。この発見は、プラスチック汚染が地球規模で広がり、地球の最も遠隔の地域にまで影響を及ぼしている様子を浮き彫りにしています。
最近の研究では、MNPsが私たちの身体とどのように関連しているのか徐々に明らかになり、長期的な影響についても深刻な懸念が生じていることが示唆されています。
例えば、2024年4月にNature medicineという雑誌でのエディトリアルでMNPsが取り上げられました。この総説では、MNPsは主に摂取または吸入によって体内に入り、血液、肺、胎盤、母乳など、人間のさまざまな組織や器官で MNPs が蓄積されていることが説明されています。また、体の様々な臓器や組織に小さなプラスチック粒子が蓄積していることを示す証拠が明らかになるにつれて、これらの粒子が人間の健康に及ぼす影響についてより深く理解することが必要とされているとも述べられています。
このように、MNPsが私たちの身体に与える影響は、これまで考えられていたよりも深刻で広範囲に及ぶ可能性があります。
心臓血管への懸念
最新の研究では、人体への影響について憂慮すべきもの報告されています。The New England Journal of Medicineに掲載された研究結果では、304人の頸動脈から外科的に摘出されたアテローム性プラークのサンプルにおいて、プラークの約半数からプラスチックが検出され、そのうち150のサンプルにはポリエチレンが、31のサンプルにはポリ塩化ビニルが含まれていました。電子顕微鏡を用いた分析により、研究者たちはプラークの中にMNPsに特徴的な粒子を発見しました。プラークにプラスチックが沈着していることは、その後の心血管疾患の発症と強く関連しており、34か月の間にプラークにMNPsが認められた人々は、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、またはあらゆる原因による死亡の合計リスクが、MNPsが認められなかった人々に比べて4.5倍高いという結果が示されました。
この研究は、MNPsと心血管疾患発症との因果関係を示すものではないものの、今後のMNPsへの注目をさらに強いものとしたといえます。
長期的な影響
私たちの環境におけるMNPsの存在は、単なる短期的な問題にとどまりません。Natureのある記事は、MNPsの存在が「人新世」――人間活動が地球環境に大きな影響を与え始めた新しい地質学的時代――の開始時期を特定する努力を複雑にしているとしています。たとえば、ラトビアの湖の堆積物調査では、マイクロプラスチックの粒子が古い層まで移動していることが判明しています。これにより、MNPsを人新世の正確な指標として使用することが困難であることが示唆されました。この発見は、私たちの日常的なプラスチック使用が遠い未来の地層にまで影響を与えうる可能性を示唆し、環境への影響を浮き彫りにしています。同時に、私たちのプラスチック使用に関してさらに深く考えさせる結果となりました。
結論
MNPsに関する新たな研究は、それらが人間の健康と環境に与える影響について、懸念すべき状況を示しています。心血管系疾患のリスクから、極地方での発見に至るまで、MNPsは、多面的な脅威をもたらしています。MNPsと私たちの身体への影響が明らかになりつつある現在、この問題に対処するには、こうした最新のエビデンスをベースにしながら、科学者、政策立案者、そして一般市民が一丸となり、MNPsの健康への影響に関するさらなる研究を支援し、解決策を探ることが重要です。
参考文献
Leistenschneider, Clara, Fangzhu Wu, Sebastian Primpke, Gunnar Gerdts, and Patricia Burkhardt-Holm. 2024. “Unveiling High Concentrations of Small Microplastics (11-500 μm) in Surface Water Samples from the Southern Weddell Sea off Antarctica.” The Science of the Total Environment 927 (March): 172124.
“Microplastics Are Everywhere – We Need to Understand How They Affect Human Health.” 2024. Nature Medicine 30 (4): 913. https://doi.org/10.1038/s41591-024-02968-x.
Marfella, Raffaele, Francesco Prattichizzo, Celestino Sardu, Gianluca Fulgenzi, Laura Graciotti, Tatiana Spadoni, Nunzia D’Onofrio, et al. 2024. “Microplastics and Nanoplastics in Atheromas and Cardiovascular Events.” The New England Journal of Medicine 390 (10): 900–910.
Sanderson, Katharine. 2024. “Buried Microplastics Complicate Efforts to Define the Anthropocene.” Nature Publishing Group UK. Springer Science and Business Media LLC. February 21, 2024. https://doi.org/10.1038/d41586-024-00535-5.