WHO、パンデミック条約の草案合意を公表
2025年4月16日、世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染拡大の教訓を踏まえた新たな国際条約「パンデミック条約(pandemic treaty)」について、加盟国間で草案が合意に至ったと発表しました。この合意を受け、WHOは5月中旬に開催予定の第78回世界保健総会(WHA:World Health Assembly)での正式採択を目指します。
本条約は、感染症の世界的大流行(パンデミック)への予防・準備・対応に関する国際的な枠組みを定める初の取り決めです。当初は2024年の採択が見込まれていましたが、ワクチン配分や医薬品供給をめぐる先進国と途上国間の意見の隔たりから交渉が難航していました。
合意された草案には、各国にパンデミック予防計画の策定を義務づけるとともに、途上国における医薬品の生産能力強化に向けた技術・ノウハウの移転や、病原体情報へのアクセスや利益配分のための新たな国際枠組みである「PABS(Pathogen Access and Benefit-Sharing)System」を設置することなどが盛り込まれています。
また、草案では、人獣共通感染症への対応に際し、人だけではなく動植物の生態系も併せて考慮するワンヘルス(One Health)アプローチへのコミットメントも明記されました。このアプローチは、地球環境と人の健康との相互関連性を探求するプラネタリーヘルスの観点からも意義があるといえます。
一方で、WHO最大の資金拠出国である米国は、トランプ政権の方針によりWHO及びパンデミック条約の交渉から離脱しており、同条約の効果的・実効的な運用に影を落としています。
それでも、今回の条約は、国際保健(グローバルヘルス)において1つの大きな成果であることには間違いなく、パンデミック対策を地球規模で再構築する重要な一歩と言えます。WHAでの正式採択を含め、今後の国際的な議論の行方が注目されます。