Blog

プラネタリーヘルスの各トピックに関する知見を紹介します

Choosing Wiselyとプラネタリーヘルス

2025.03.24

Choosing Wiselyとはなにか

近年、医療現場においては低価値医療(Low-value Care)が重要な課題として認識されています。低価値医療とは、患者に臨床的な利益がほとんどないにも関わらず、しばしば過剰に提供される医療行為のことであり、患者への潜在的な害だけでなく、限られた医療資源の浪費や環境負荷の増大といった社会的・環境的問題も伴います。この問題への対策として注目されている取り組みが、Choosing Wiselyです。

Choosing Wiselyは、2012年に米国のAmerican Board of Internal Medicine Foundationによって提唱された概念であり、不必要な検査や治療を減らし、患者にとって真に必要な医療の選択を可能にすることを目的としています。その背景には、ポリファーマシー(薬の多剤併用)や過剰診断・過剰検査が世界的な問題となりつつあることが挙げられます。

現在ではカナダを含む世界30か国以上に展開されており、日本でもChoosing Wisely Japanが設立されました。各国の医療者団体が科学的エビデンスに基づいて、不必要または有害である可能性の高い医療行為を特定した推奨リストを作成・公開しています。

カナダにおけるChoosing Wisely

カナダは、Choosing Wiselyを活発に行っている国の1つです。Choosing Wisely Canada(CWC)が医療分野ごとの推奨事項を作成し、定期的に更新しています。特に物理医学・リハビリテーション分野では、2016年にCanadian Association of Physical Medicine & Rehabilitation (CAPM&R)が最初の推奨事項を発表し、その後、2022年に最新のエビデンスと様々な診療科の臨床医のフィードバックを反映する形で改訂が行われました。例えば、「慢性非がん性疼痛の管理で、非オピオイド薬や非薬理学的治療を十分に試みる前にオピオイド鎮痛薬を処方しない」、「レッドフラッグサインがない限り、腰痛に対して画像診断を行わない」などが挙げられています。

また、カナダ内科学会(CSIM)は、気候変動の視点を明確に取り入れた新たな推奨を発表しました。この推奨は、医療行為がもたらす環境負荷を考慮し、炭素排出量の高い医療行為を低価値医療として位置づけ、削減を目指す内容となっています。具体的には、「抗菌薬投与について、経口薬で対応可能な状況では、静脈内投与を行わない」、「環境負荷の高いヘパリンに関し、患者が経口薬を希望し、安全・有効に使える状況では、処方しない」、「入院患者への日常的な血液検査のルーティン化を避ける」など、合計8つの具体的推奨を定めています。

Choosing Wiselyとプラネタリーヘルス

Choosing Wiselyは、単に医療費削減や効率化を目的とするのではなく、医療資源を適切に活用し、医療がもたらす環境負荷を低減することによって、持続可能な社会と健康な地球環境の実現を目指しています。このように、Choosing Wiselyの取り組みは、医療と地球環境の持続可能性を一体的に考えるプラネタリーヘルスの理念とも密接に結びついています。

実際、CWCやCSIMの動きもプラネタリーヘルスを意識しています。例えば、CAPM&Rは、プラネタリーヘルスの視点も導入しています。具体的には、推奨事項の中に「再利用またはリサイクル可能な補助具や義肢の廃棄を避ける」を掲げ、医療に伴う環境負荷の軽減にも積極的に取り組んでいます。また、上述したCSIMの推奨は、患者の利益だけでなく地球環境への負荷を減らすコベネフィットを強調しています。

今後はさらに多くの医療分野において、こうしたプラネタリーヘルスの視点を取り入れた推奨が拡大し、より包括的で持続可能な医療の実現に向けた動きが加速することが期待されます。そのような中で、医療関係者だけでなく、市民一人ひとりがChoosing Wiselyの推奨事項に理解を示し、積極的に参加していくことが重要です。