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プラネタリーヘルスの各トピックに関する知見を紹介します

暑熱による健康被害

2024.09.15

気候変動が進む中、夏季の気温上昇や異常気象による熱波が頻発し、私たちの健康に重大な影響を与えるようになっています。暑熱による健康被害は、単に暑さを感じるだけにとどまらず、命に関わるリスクを伴うものです。本記事では、暑熱がもたらすさまざまな健康リスクについて、具体的に解説していきます。

1. 熱中症リスクの増大

暑熱による健康被害で最もよく知られているのが熱中症です。気候変動による気温上昇や熱波の頻発により、熱中症のリスクはますます高まっています。熱中症とは、体が高温環境にさらされることで体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもってしまう状態を指します。初期症状としては、めまい、立ちくらみ、筋肉のけいれんなどがあり、重症化すると意識障害や多臓器不全に至ることもあります。

高リスクの人々

熱中症のリスクは、全ての人に等しく生じるわけではありません。特に、子供や高齢者、そして基礎疾患を抱える人々は、熱中症に対して特に脆弱です。例えば、高齢者は体温調節機能が低下しているため、暑さに対する適応能力が若年層に比べて劣ります。また、心疾患や糖尿病などの基礎疾患を持つ人々は、通常の健康な人よりも熱中症を発症しやすく、重篤化するリスクが高いとされています。

予防策と日本の取り組み

日本では、熱中症予防に対して多くの取り組みが行われています。環境省は「熱中症アラート」を発令し、暑さ指数(WBGT: Wet Bulb Globe Temperature)を用いて、気温だけでなく湿度や放射熱も考慮したリスク評価を行っています。これにより、単に「暑い」という感覚以上に、具体的な数値で熱中症リスクを把握することが可能です。また、厚生労働省は熱中症対策推進会議を通じて、予防と応急対策の普及を図っています。例えば、地域ごとに異なる暑熱環境に応じた対策の推進や、熱中症による死亡者数や入院者数の公表など、データに基づいた対策を実施しています。政府だけではなく、一般社団法人日本気象協会は、基礎知識から対象方法などをまとめたポータルサイトである「熱中症ゼロへ」を運営しています。

しかし、これらの対策が進んでいるにもかかわらず、2024年の7月1日から7日の1週間に熱中症で病院搬送された人は全国で9105人に上り、前年同期(4026人)比の2倍以上を記録しました。また、近年は9月に入っても熱中症の緊急搬送件数は高い件数を記録しています。気候変動の影響が急速に進行していることを示しており、より積極的な対策と国民への啓発が求められています。

基礎疾患と熱中症対策の難しさ

また、基礎疾患を持つ人々にとっては、一般的に推奨される熱中症対策がかえって健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。例えば、スポーツドリンクの摂取は、水分や電解質の補給に効果的ですが、糖分や塩分が多く含まれているため、基礎疾患によっては注意が必要であることも指摘されています。そのため、基礎疾患の状態に応じた個別の対策が必要であり、医療機関や専門家のアドバイスを受けることが重要です。

2. 熱中症以外の健康リスク

暑熱による健康被害は、熱中症だけにとどまりません。高温環境は、私たちの身体や心にさまざまな悪影響を及ぼすことが知られています。

循環器疾患のリスク増加

高温環境は、心血管系にも深刻な影響を与えます。カリフォルニア州における研究では、極端な暑さと大気汚染への短期間の暴露は、それぞれ単独で死亡率のリスク増加と関連しており、さらにそれらへの同時の暴露は、個々の効果の合計を上回る大きな影響があった。

メンタルヘルスへの影響

暑熱は、私たちのメンタルヘルスにも影響を与えます。高温環境にさらされると、イライラ感や不安感が増幅されることがあり、これがうつ病の悪化や自殺リスクの増加に結びつく可能性があります。また、熱波の時期には、攻撃的な行動の増加や家庭内暴力の発生率が上昇するとの報告もあります。さらに、暑熱によって睡眠の質が低下し、日常生活の質全般が悪化することも問題です。

認知機能への影響

高温環境に長期間さらされることは、高齢者の認知機能に悪影響を及ぼす可能性があります。最近の研究では、繰り返し熱波にさらされた高齢者は、認知機能が低下するリスクが高まることが明らかになっています。ただし、この研究では、人種によっては熱波と認識能の低下と関連していない場合もあり、一般論として認知機能への影響があると断じることができるかはまだ不透明です。

まとめ

以上のとおり、暑熱による健康被害は、単なる熱中症だけに限られず、循環器疾患、メンタルヘルスへの悪影響など、多岐にわたります。これらのリスクに対する認識を高め、適切な対策を講じることが重要です。
こうした健康リスクに対応するためには、暑熱による健康被害を包括的に捉えた対策が必要です。アメリカなどでは、インフォメーションサイト(NIHHIS:National Integrated Heat Health Information System)において、熱波や高温環境に関連する広範な健康リスクに対して、さまざまな予防策や啓発活動が展開されています。日本でも、熱中症対策にとどまらず、「暑熱による健康被害」を総合的に予防するための施策が求められています。