大西洋における海洋循環の弱体化を示す学術研究が相次ぐ
2026年4月、海流循環の1つである大西洋子午面循環(AMOC)の弱体化について、従来の気候モデルの予測よりも大幅に深刻な状態にある可能性を示す二つの新たな研究が、学術誌(Science Advances誌)に相次いで掲載されました。AMOCはベルトコンベアのように熱・塩分・淡水を大洋全体に輸送し、欧州の温暖な気候や世界各地の気象パターンを維持する上で不可欠な役割を担っています。このうち、将来予測を扱った研究は、気候モデルとCMIP6モデル群・海水温・塩分などの実観測データを組み合わせた手法を用い、今世紀末までにAMOCが約51%弱まるとの推計を示しました。これは全気候モデルの平均推計より約60%強い弱体化に相当し、従来の気候モデルがAMOCの衰退を過小評価している可能性を指摘するものです。
もう1つの研究では、2004年以降、北大西洋西岸の4か所の係留観測点(北緯16.5度から42.5度)で計測されてきた海底圧力・水温・塩分・海流速度のデータを分析した結果、過去20年間にわたって四つの異なる緯度でAMOCの深層西岸輸送が一貫して減少していることを確認したと報告しています。ただし同論文は、東岸では逆に輸送が部分的に強化されており、西岸のシグナル単独では流域全体のAMOC変化量を過大評価しうるとも指摘しており、解釈には留意が必要です。AMOCの将来については科学者の間でも見解が分かれていますが、直近においてAMOCの弱体化を指摘する複数の論文が発表されたことは、この科学的議論に大きな影響を与えると思われます。
AMOCの弱まりは、気候変動の観点からも憂慮すべきものといえます。ある研究によれば、AMOCが停止した場合、南大洋が炭素吸収源から排出源へと転じることで大気中に多量のCO₂が追加放出され、約0.2度の地球温暖化に寄与すると推計されています。気候変動による様々な健康影響が指摘されていることからすれば、AMOCの弱まりは、プラネタリーヘルスの観点からも注目される事象といえます。